か
心のコップが溢れそうになる。不安、高揚、劣等、楽観。気味の悪いミックスだ。
😖か
車に揺られる。窓から見える景色は緑が多い。ただ雑多かといえばそんなことは無い。刈り取られた芝生がほとんどだ。ときおり意図的に残された木が生えている。ここはゴルフ場だ。
「幸子さん、そろそろ出番です。」
番組ADの杉山くんにそう伝えられる。
「ええ、わかったわ。」
そう言い、彼の方を見る。顔は程よくやけて、並びのいい歯がきらりと光る。豊かなカーブを描く二重まぶたが素直に笑顔をつくる。両親の愛をたっぷりと受けて育ってきたのがわかる柔和な笑顔だ。全身についた筋肉は彼が打ち込んできたという野球の賜物だろうか。つい、下半身に目がいってしまう。彼はキャッチャーだと言っていた。がっしりとした太ももはそれだけで素晴らしい。その太ももの間で構成された三角州を見やる。なるほど、デルタ構造の中に立派なテトラポットがある。
私にずっと見られてるのがよほど気味悪いのだろうか。彼の頬が引きつっている。
連絡先を聞いておこうかしら。そう思い、スマホが入ったカバンを取り出す。
「あ、幸子さんもうあと3分くらいで着きます。」
「あらそうなの?」
内心舌打ちしたい気持ちになるも、カバンの中から鏡を取り出す。美のカリスマとしてメークだけは自分でやると決めているのだ。
鏡をみる。 大仏みたいなでかい顔に腫れぼったい一重まぶた、ドロを吹いたような肌にたらこ唇。本来ならこの世のものとも思えない顔が映るはずのそこには一流のメークにより完全に生まれ変わった私がいた。
透き通るような白い肌にアイプチにより愛らしさを付与された目、リップにより官能的になった唇。これが今の私の到達点。一流メークアップアーティストのSACHIKO。
私のメークに隙が無いことを確認し、ヅラを被る。これで完璧だ。
「さっちゃん、もういける?」
「ええ、完璧よ」
車が泊まる。確か今日の収録はタレント大集合でのゴルフ大会のはずだ。司会者もゲストも超大物である。これは私の美を売りつける絶好のチャンスだ。
か
炯眼
か
時刻は夜9時半を回っていた。だれた人形のようなサラリーマン達を掻き分け、JRのホームに降り立つ。この時ばかりは凱旋してきたような気がする。ファンファーレは電車の発射音だ。駅員にとってルーティンワークと化しているであろう駆け込み乗車を防止するアナウンスが聞こえる。大丈夫、だれも走り込む体力なんか持っていない。
降りたのは私だけだったようだ。満員電車から開放された余韻の中でぬるくなったペットボトルのコーヒーをあおった。朝7時に買った時にはキンキンに冷え、夏の暑さに反応するかのような結露を滴らせていたのに時間の経過でこうも不味くなるものなのか。夏半ばのムシムシとする駅のホームの階段を、ワイシャツの第2ボタンを人差し指で荒々しく外しながらかけ降りた。3つしかない改札の真ん中を選び事前に用意しておいたSuicaを滑らせるようにタッチした。残高は変わらない。定期は便利だ。
改札を出たところでそういえば何も食べていないことに気が付いた。腹が減った。食欲は素直でない子供のようだ。普段は何ともない振りをしてるくせにこっちがちょっとでも気を抜くと一気に暴れ出す。今の私のコントロール件は中枢神経ではない。胃だ。
か
ⅰ、意思決定集団は利害が一致し、互いに敬意を抱く個人で構成する。
ⅱ、リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする。
ⅲ、多様な回答を探る。
ⅳ、集団の知識を議論を通じてまとめる。
ⅴ、定足数反応を使って一貫性、正確性、スピードを確保する。
か
シノレスの箱